「脳卒中」について




脳神経外科  三隅 修三

spaceここ20年間、診断、治療の進歩と、成人病予防の啓蒙、知識の普及により、脳卒中で亡くなる人は半減してはいますが、心疾患と、死因の第2位、3位を競っている状況です。若い働き盛りの年代の脳出血は減り、変わりに、脳硬塞の割合は増えており、脳梗塞の予防や初期治療の大切さが痛感されます。
space脳卒中とは、急に発症する脳血管障害の総称であり、脳硬塞が6割、脳出血2〜3割、くも膜下出血1割という構成になっています。くも膜下出血や脳塞栓を除けば、脳卒中の原因は動脈硬化であり、予防、治療もそれに基ずくものです。糖尿病、高血圧、高脂血症、煙草などがその危険因子であることは良く知られておりますが、代表的な脳卒中疾患について、予防や現在、当院で行っている治療を紹介し、少しでも皆さんの健康維持にお役に立てばと願います。

1.脳硬塞
space脳硬塞は脳動脈が狭窄や閉塞し、血流が低下あるいは、停止することによりおきます。それは、動脈硬化が原因である「脳血栓」と、他に原因があって起こる「脳塞栓」に分けられます。

【脳血栓】
 これも2つのタイプがあり、一つは“頚動脈や、脳の太い主幹動脈が動脈硬化で狭窄し、さらに血栓が生じてつまるために、脳の広範な領域が梗塞になる”ものと、もう一つは”脳内の細い穿通枝が閉塞し、ラクネと呼ばれる小さい梗塞になる”ものです。”ラクネ”は5ミリ以下の小さいものですが、部位によっては、手足の麻痺、言葉の不明瞭さ、めまいや歩行失調といった症状がみられます。無症状のこともありますが、しかし、だんだん多発し、ぎこちない動作や、痴呆といった結果になることもあります。ラクネは高血圧、特に血圧の変動の激しい場合に、生じやすいとされ、高血圧の治療が大切です。
 主幹動脈の閉塞した場合は、梗塞の範囲が広く、その後に脳浮腫が加わって、麻痺、失語などの症状だけでなく、意識障害におちいます。ただし、前兆のような一過性の麻痺や、軽い症状で始まり、しだいに進行することもしばしばで、このような初期では、血栓に対する、治療を行えば、症状を悪化させないことも可能です。脳の動脈というものはお互いにの連絡が乏しく、一つの動脈の閉塞で、そこから先きが直ぐ梗塞になってしまいますが、狭窄から閉塞へと一気に進まなければ、結構、自然なバイパスが出来て、脳血流が維持されます。抗血小板凝固作用のある薬剤は、その、十分な効果があります。しかし、狭窄血管そのものにより、血流が不足している場合は、バイパス形成や、狭窄部位の拡張を行う必要があります。年齢とともに、動脈硬化は進むものですが、これに脱水や、血液が粘稠となって、血栓が出来やすくならないように食生活を気をつけることは大切で、例えば、青魚を週2、3回は食べるとか、寝る前にコップ一杯の水分をとるなども、有効といわれています。


【脳塞栓】
 これは主として、”心房細動”などの不整脈により、心臓内に血栓が生じ、細かく砕け、あるいは大きな塊として、脳動脈に飛んで、これを閉塞させることにより、おきます。広範な脳梗塞や浮腫を生じ、意識障害や麻痺、時には死亡することも稀ではありません。すべての不整脈が原因ではありませんが、一度は内科や循環器科を受診していただきたいものです。
血栓を生じやすいタイプの不整脈であれば、”ワーファリン”などの抗凝固剤での治療を受けるしか、現在では、脳塞栓を予防する方法はありません。脳塞栓にいたった場合、発症後、間もない(3時間以内)例では、脳血管にひかかった血栓を溶解し、再開通させる治療も試みますが、その後、脳出血(=出血性脳硬塞)を生じることもあり、かなり治療は困難をきわめます。

2.脳出血
 原因はまず、高血圧であり、最近では、脳出血予防のためには、血圧の上限を140以下、出来れば130以下にすべきであると言われています。自分の血圧が普段どうなのか、どんな時に、上昇するか知っておくことが望ましいと思われます。
 基底核部や小脳といわれる部位の出血では、意識障害が重くても、言葉に対してなんらかの反応があれば障害は残りますが、手術で有意義な回復が期待できます。最近は、軽〜中等度の意識障害で、これが長引くときは、回復を促進するため、1週間後ぐらいに、小さい穿頭から細い針で、血腫を吸引する方法(定位的脳手術)を勧めます。高齢者にも負担が少なく、良い方法と思われます。

3.くも膜下出血
 脳動脈瘤破裂が主たる原因で、再出血を来しやすく、迅速な、診断と再出血の予防のための手術が必要です。どんな治療を行っても、また残念ながら、1/3の患者が亡くなっています。
脳動脈瘤は、脳血管の分岐する所の壁が薄く、次第に拡張し、最終的に破裂するものですが、その発生には家族的素因や高血圧も関係しています。患者さんの状態が悪い場合は、症状の安定する慢性期に行う方が結果がよいこともあります。
最近、脳ドックなどにより、破裂前に、脳動脈瘤を発見し、手術したり、あるいは、開頭による手術でなく、血管内より、カテーテルをすすめ、動脈瘤を内側からコイル状の金属でつめて、治療する方法がなされて来ています。未破裂動脈瘤が破裂する確率は3%内外であり、一度破裂した動脈瘤が再破裂する率(50%以上)に比べれば、かなり少ないといえます。手術治療の合併症を5%とすると、本人の年齢、動脈瘤の大きさ、形、部位、を総合的に考えて、手術(血管内手術を含め)するかどうか、決定する必要があります。未破裂動脈瘤が発見された場合、高血圧や、過労を避けて、動脈瘤の大きさが変わらないかどうか様子を見るということも一つの選択枝と思われます。






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