眼科主任医長  小林 秀雄

 人の眼球の大きさは直径約24ミリメートルで、10円玉と同じ大きさの感覚器です。とても小さな臓器ですが、人間が体の外から受ける情報の約80%は、目から入るといわれています。網膜は眼球の内面(眼底)に広がっている、カメラのフィルムに相当する薄い膜状の組織です。この網膜が眼底から剥がれてしまう病気が網膜剥離です。破れたり皺になったフィルムでは、よい写真が撮れなくなるのと同じで、網膜剥離が生じると視力や視野に大きな影響が生じます。
 網膜剥離は網膜の一部に裂け目(網膜裂孔)ができ、そこから網膜の裏側に眼球内の水分が流れ込んで、眼底から網膜が剥がれることで生じます。裂孔ができる主な原因は、硝子体による網膜の牽引です。硝子体とは眼球内部を占めているゼリー状の組織です。もともと硝子体は常に網膜と接していますが、60歳位から加齢による変化で硝子体は網膜から剥がれます(後部硝子体剥離)。この際に網膜と硝子体が病的に癒着していると、硝子体が網膜から剥がれる際に網膜が引っ張られて、裂孔が出来てしまいます。
 網膜剥離の好発年齢は20代と60代で、年配者に起こるのはこの硝子体牽引が大半です。若年者の網膜剥離は強度の近視によるものが多くを占めます。近視が強い目は眼球が大きいため網膜がその分薄くなり、自然に網膜に穴(網膜円孔)が空きやすい状態となります。
 網膜剥離が生じると剥がれた網膜の部分の視野が欠け、さらに進行すると視力が低下し、失明原因にもなる病気です。では網膜剥離が生じる前に、なにか前触れはないのでしょうか。もしそうした症状があれば早期診断・治療により、視野も視力も良好な状態を維持できるはずです。そこでクローズアップされてくるのが、飛蚊症です。
 飛蚊症は、目の前にゴミがちらついて、あたかも蚊が飛んでいるように見える症状のことです。特に青空や白い紙を見た時に、よりはっきり見えます。ただ飛蚊症があるからといって、全部が病気と関係あるわけではありません。飛蚊症には加齢による後部硝子体剥離の際にも生じます。これは「生理的飛蚊症」と呼ばれ、たいていの飛蚊症はこれに該当し、無害なものです。 一方、網膜に裂孔や円孔が生じても、そのかすが硝子体中に撒かれるために飛蚊症が生じます。生理的飛蚊症と病的な飛蚊症は、症状だけでは区別がつきにくく、眼底検査を受けなければ判断できません。
 網膜剥離は手術しか治療手段はなく、術後の視機能も不良なことが多い病気です。網膜剥離の前段階での網膜裂孔や網膜円孔に対しては、レーザー光凝固治療で網膜剥離化を阻止できる可能性があります。もし飛蚊症が生じた場合には眼底検査を早急に行い、早期発見・治療をすることで、より良い視機能の維持が期待できます。






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